恋愛もOMO アプリでチャット、リアルで会話弾む
Lifestyle X(5)

Lifestyle X
2020/8/23 2:04 (2020/8/28 2:00更新)
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人生のパートナーを選ぶ「婚活」にも変化の芽が出ている。新型コロナウイルス禍で広がったのがオンラインによるお見合い、合コン、デート。新たな出会いを求め、恋愛市場にもマーケティングで注目されるOMO(オンライン・マージズ・ウィズ・オフライン)の概念が浸透し、オンラインとオフラインの垣根がなくなりつつある。

■婚活アプリ「就活みたい」

独身者の4人に1人が婚活サービスを利用し、婚姻者の8人に1人が同サービスを通じて結婚している――。リクルートブライダル総研の「婚活実態調査2019」によると、婚活アプリなどでパートナーを探す人は年々増えている。「合コンなどよりコスパがいい」と評される一方で、新たな悩みも生まれている。

「常時10人くらいとやりとりをしているので、1日のメッセージ数が100件を軽く超えてしまう」と嘆くのは都内在住の女性会社員(26)。特に最初は趣味や仕事など同じような質問の応酬が続き、「恋愛というより就活しているような気分だ」。婚活アプリでは写真や年齢で予備選抜されるので、就活を思い出す若者は多い。

エクセル表で恋人候補数人との進捗を管理しているデータサイエンティストの男性も。「もっといい人がいるかも」と理想を追い求め、結局一人に絞りきれない。終わりのない検索沼にはまり、婚活疲れを引き起こす。現代のジレンマだ。

■「リアルの方が怖い」

面倒なメッセージの応酬も、無駄なデートもしたくない。そんな若者に「タイパ(タイムパフォーマンス)最強」と支持されているサービスが「ダイン」だ。お互いのプロフィルを見てマッチングが成立すると、自動的にレストランデートをセッティングできる。往年のブラインドデートの形式に近いが、歯科医院に勤める女性(30)は「登録時に本人認証などもしてあるので不安はない。リアルのナンパの方が身元不明でよほど怖い」と話す。

ダインのオンラインデートでは初対面でも楽しめる仕掛けがある

ダインのオンラインデートでは初対面でも楽しめる仕掛けがある

コロナ禍の外出自粛要請で婚活市場は冷え込むかにみえた。そんななか、スマホ上でオンラインデートができるサービスが4月に登場した。めざしたのは「30分で恋に落ちるオンラインデート」。自動的に画面に表示される10の質問に順番に答えていく。「好きなお酒」「出身地」などのライトな質問から、「初めてキスした場所」などちょっとドキドキする質問も。最後は「相手との共通点」「相手の長所」など好意を示すような質問に誘導する。「リアルで会ってたらこんなこと聞けない」と会社経営者の男性(34)は照れくさそうに話す。

このサービスを手がけるMrk&Co(東京・渋谷)の上條景介社長はユニークな経歴をもつ。東京農工大学在学中にブログ「がんばれ、生協の白石さん!」を開設し、書籍化された同作はヒット作に。ディー・エヌ・エー(DeNA)に入社した1年目に社内新規事業立案制度で優勝し、その後にソーシャルゲーム「海賊トレジャー」の開発に参加。2015年に退職し、このサービスを創業した。「米国で相手を好きになる36の質問という論文があり、そのエッセンスを30分に凝縮した」(上條社長)

「自然に会話が盛り上がった」と、利用者の3割以上が初対面にもかかわらず2時間ものオンラインデートを楽しむ。いわゆるモテる人ならば自然に体得している会話術を、誰もがテックで手に入れている。

■異性同士の会話禁止のバー

「No Talk Bar」では私語厳禁でチャットで交流する

「No Talk Bar」では私語厳禁でチャットで交流する

恋愛のOMOは「No Talk Bar」も生み出した。その名の通り、「3密」を回避すべく異性同士の会話は禁止。店舗にチェックインすることで、アプリ上で他の来店者のプロフィルを見たり、チャットで交流したりできる。相手の雰囲気なども確認でき、リアルの会話の緊張感は軽減されるので「シャイな自分としては直接声をかけるより話しやすかった」(29歳男性)。オンラインとオフラインのいいとこ取りだ。

人工知能(AI)と運営スタッフの目利きで恋人同士のマッチングをする「今日から恋人」と呼ぶサービスも7月に始まった。オンラインデートにも橋渡し役となる仲人が立ち会う。外資系企業勤務の男性(33)は「デートの日時や場所までサポートしてくれるので、誘うのが下手でもちゃんとデートができる」と話す。既に100組以上のカップルが成立している。恋愛離れが指摘される若い世代にとって、恋愛スイッチをいれるためのお膳立ては必要条件なのかもしれない。

オンラインデートでは効率的に相手と知り合える

オンラインデートでは効率的に相手と知り合える

ウェブデザイナーの今村光一郎さん(26)が飛び込んだのは7日間のお試し同居生活だ。シェアハウスで一緒に暮らしながら、オンラインでは見えない素の部分も見せ合うことで相手との距離を縮めていくという。職場や学校などの日常の中で自然に恋が生まれれば理想だが、「それぞれのコミュニティーでは『見せたい自分』しか見せない」(今村さん)のが今の20代の距離感だ。

■三高、三平、三低から変化

マッチングアプリで知り合い、デートするカップル(東京・品川)

マッチングアプリで知り合い、デートするカップル(東京・品川)

「初めて会った感じがしない」。はにかみながら笑顔を見せるのは都内在住の女性(30)。2時間のオンラインデートを経て、この日が初めてのリアルのデートだ。オンラインデートは相手の表情や話し方などリアルに近い形でコミュニケーションがとれる。自宅などリラックスした環境なので「どんなに取りつくろっても最初から素が見れる」。写真やチャットのやりとりと違い、「実際に会ってみてがっかりということもない」という。

女性がパートナーに求める条件は時代の変化とともに「三高(高学歴、高身長、高年収)」、「三平(平均的な年収、平凡な外見、平穏な性格)」、「三低(低姿勢、低依存、低リスク)」と変わってきた。そして相次ぐ自然災害や新型コロナなど未曽有の危機に直面するいま、パートナーに求めるのは「共通した金銭感覚、家事や育児の共有、仕事や家族など価値観の共感の三共」と博報堂キャリジョ研の松井博代さんは指摘する。

仕事も趣味も友人との会話もスマホひとつで完結する時代。だからこそ「実際に顔を合わせて、同じ時間や空間を共有する大切さを改めて実感した」と語る女性(26)もいる。仕事も住む場所もパートナー選びも「居心地の良さ」重視。オンとオフを多層的に生きるOMOが日常となる「Lifestyle X」世代のキーワードだ。

=おわり

(松原礼奈)

グラフィックス 鎌田多恵子

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